社会現象となった「あざとさ」の光と影
「あの人、ちょっと『あざとい』よね」。この言葉は、今や批判から肯定へとその意味を変え、今森茉耶も武器とする戦略的な魅力として社会現象となりました。
しかし、このブームは終焉を迎えつつあります。本記事では、言葉の意味変遷をたどりつつ、計算ずくの「あざとさ」が若年層の共感を失い、新しいトレンド「不憫かわいい」に転換した背景を、Z世代が直面する社会的な現実とデジタル戦略から分析します。
I: 「あざとい」言葉の意味変遷と現代の肯定的な受容 🌟
1-1: 本来は「ずる賢い」「思慮が浅い」ネガティブな言葉だった
現代で「あざとい」が持つ「可愛い」というイメージとは裏腹に、その起源は否定的な意味合いにあります。
もともと「あざとい」は、「ずる賢い」「思慮が浅い」といったネガティブな意味を持つ言葉でした。
辞書的な意味では「やり方があくどい」「小利口である」と記され、「小聡明」という漢字表記も持つように、人の考え方ややり方を批判する言葉として使用されてきました。
あるコーパス分析論文によれば、1980年代から2000年代にかけての使用例は、「あくどい」「小利口」といった圧倒的にネガティブな文脈で占められていました。
メディア教育が、かつては文学に比べて低俗と見なした大衆文化（広告、マンガ、映画）の「悪い影響」から子どもたちを守る「予防接種」として始まった歴史的背景と通じるように、大衆が持つ「軽薄さ」への警戒心は古くから存在していたと言えます。
1-2: 2010年代以降に生じた「計算された可愛さ」への転換
この言葉の意味は、わずか10年余りという驚くべき速さで変化しました。
2010年代初頭に、従来の批判的なニュアンスから離れたポジティブな意味合いである「可愛い」という用法が出現し始め、徐々に広がりを見せます。現代的用法では、「計算ずくで愛らしくふるまうさま」として受け入れられ、非難の意を含まなくなりました。
わずか10年余りで、ひとつの言葉が持つ評価が180度転換したこの事実は、現代のメディアや社会トレンドが、いかに強力に言語そのものを動かしているかを示す決定的な証拠と言えるでしょう。
1-3: 「あざとかわいい」の登場とプラス評価の普及
2021年の調査では、用例の約60%が「可愛い」という肯定的な意味で使われるようになり、ついにポジティブな意味が主流となりました。
この肯定的な受容を決定づけたのが、「あざとい」に「可愛い」を合わせた「あざとかわいい」という造語の登場です。
これは、計算的な可愛さを肯定する意味合いが込められており、結果として「あざとい」単独でもプラスの評価を表すように推移しました。化粧品の商品名にも使われるようになるなど、この「計算的な魅力」を肯定する風潮が社会的なトレンドとして定着しました。
II: 「あざとさ」が人気を得たメカニズムと、スキャンダルが示すリスク 💖
2-1: 男性心理を刺激する「承認欲求」の充足
「あざとい」行動が人気（モテ）を得た背景には、相手の心理を巧みに刺激するメカニズムがあります。
特に男性の40%が「あざとい女性」に好意を持つという調査結果もあり、褒め上手、喜び上手な振る舞いは、男性が「必要とされたい」という承認欲求を満たす要因となります。
これは、単に外見的な魅力だけでなく、空気を読み、TPOをわきまえる「賢さ」の証明として、一時期は肯定的に捉えられていました。
2-2: 「結局可愛さが勝つ」庇護欲を刺激する具体的な仕草
計算と分かっていても可愛さが勝るのが、モテにおける男性心理です。
上目遣い、ボディタッチ、頬を膨らませてすねるなど、具体的な「あざとい行動」は、男性の庇護欲を刺激し、人気を得るための武器として機能しました。
今森茉耶が武器とする「愛嬌、あざとさ」も、相手や状況に応じて態度を変える戦略的な側面を伴うものでした。
この「計算ずくの愛らしさ」は、多くの人々が求める理想的な振る舞いとしてメディアでもてはやされました。
2-3: 今森茉耶の不倫疑惑が示した「過剰な演出」の弊害
しかし、この戦略的な魅力は、一度の「過剰な演出」の失敗や「信頼の欠如」によって、その功績を一気に失うリスクを内包していました。
そのリスクを如実に示したのが、女優・今森茉耶の不倫疑惑報道です。
人気特撮番組『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』で戦隊ブラック（ゴジュウユニコーン／一河角乃役）を演じていた今森茉耶は、既婚者である戦隊レッドのスーツアクター、浅井宏輔との不倫関係を『週刊文春』に報じられました。
不倫疑惑が浮上する直前、浅井は「持病の悪化」を理由に番組降板を発表しており、このタイミングから「実際の降板理由はスキャンダルではないのか」という憶測が広がる事態となりました。
さらに、今森茉耶にはプロサッカー選手との二股疑惑も報じられましたが、所属事務所は二股については否定しつつも、不倫疑惑については「事実確認を行なっている」とするにとどまりました。
この一件は、単なる共演者間の恋愛スキャンダルに留まらず、計算されたイメージ戦略である「あざとさ」が招く最悪の弊害として社会に衝撃を与えました。
- 公の場で求められる誠実さの崩壊： 報道によって、イメージ戦略としての「あざとさ」の裏側にある、公私にわたる「軽率さ」や「道徳観の欠如」が露呈しました。
本命には駆け引きよりも「素直さ」や「誠実さ」が求められる傾向がある中で、このスキャン ダルは、度を過ぎた計算が最終的に「わざとらしい」と警戒心を招き、信頼関係を壊す決定的な証拠となったのです。
- 作品とターゲット層への深刻な影響： 子どもも視聴する「ニチアサ」枠の番組であり、19歳と41歳という22歳の年齢差にも驚きの声が上がり、未成年ファンへの影響が懸念されました。
スポンサーや親世代の反発は強く、撮影スケジュールが一時白紙化するなど、作品全体に影を落としました。
この事態は、公的な場での「あざとさ」という戦略的な行動が、社会的な責任を伴うことを痛烈に示しました。
III: 「あざとい」ブームの終焉と「不憫かわいい」への転換 💔
3-1: Z世代が「あざとさ」に共感できなくなった背景
「あざとかわいい」というワードはここ1～2年で若者の間で口にされなくなり、トレンドとしての共感を失いました。
Z世代は、「あざとかわいい」を、成功した強者（タレントや有名人）が社会的地位を上げるためのツールだと認識し、自分たちの等身大の感覚から離れたものとして共感できなくなったのです。
成功を追い求めるための計算や戦略は、もはや「強者の論理」と見なされるようになりました。
3-2: 努力が報われない社会と「不憫かわいい」トレンドの誕生
この共感の喪失の背景には、Z世代が直面する社会経済的な現実が深く関わっています。
経済が停滞し、格差が固定化された時代に育った彼らにとって、「頑張れば上手くいく」という成功物語はリアリティを感じにくいものです。
むしろ、給料が上がらず、夢が見られない社会に生きる若者たちの潜在意識には、「努力は報われない」という閉塞感があります。
この潜在意識から、「不憫かわいい」という新しい価値観が生まれました。
「不憫かわいい」とは、一生懸命頑張るのになぜか報われなかったり、不運に見舞われたりするキャラクターに魅力を感じる感性のこと。
人気キャラクターの「おぱんちゅうさぎ」に多くの若者が共感を寄せるのは、ひたむきに努力するものの、いつも残念な結果に終わってしまうその姿に、自分たちのシニカルな現実や無意識の閉塞感を重ね合わせているからに他なりません。
このトレンドは、人気を集めるコンテンツやキャラクターが、その時代を生きる世代の不安や現実を映し出す鏡であることを示しています。
3-3: 衆人環視のSNS時代と「安全な自己表現」の模索
成功を前面に出す「あざとさ」がリスクを伴うのと同様に、現代は常に他者の視線にさらされ、「炎上」や「誹謗中傷」のリスクと隣り合わせの「衆人環視」のアテンション・エコノミー時代です。
自分の成功や充実したライフスタイルを投稿したいと思っても、表のアカウントでは嫉妬や批判を招くリスクがあります。
こうした過酷なデジタル環境を生きるZ世代にとって、SNSの「裏アカウント（裏アカ）」は、もはや単なる遊びではなく、精神的なバランスを保つための重要な生存戦略となりました。
自分の本音や不満を吐露できる安全地帯を求める欲求、そしてネガティブな反応を恐れることなく仲間内で承認欲求を満たせる場を求める欲求が、裏アカウントを保持する主な動機です。
これは、Z世代がいかに強い社会的プレッシャーに直面し、自身のデジタル・アイデンティティと精神的ウェルビーイングを戦略的に管理しているかを浮き彫りにしています。
IV: デジタル社会が求める「誠実さ」と「人としての魅力」 ✨
4-1: 誠実さが築く「恋愛＝信頼」の関係
「あざとさ」が強者のツールと見なされ共感を失った今、長期的な魅力、つまり長続きするモテにおいては、「女らしさ」よりも「人としての魅力」（人間力）が重要とされます。
裏表のない素直さや誠実さが相手に安心感を与え、「手放したくない存在」として信頼関係を築くのです。
今森茉耶の事例が示したように、計算ずくの戦略（あざとさ）は、それが信頼の崩壊につながった瞬間に、全ての魅力が否定され、公私にわたる深刻な事態を招きかねません。
4-2: 「演出」よりも価値を持つ素直な感情表現
SNSの利用が複雑かつ戦略的になる中で、あざとさのような演出よりも、安全な場で本音や素直な感情を表現する行動が重要になっています。
裏アカウントを持つユーザーの半数以上が、そこでさえ「炎上を気にせず自由に発言できているわけではない」と感じているという事実は、Z世代がデジタル世界でいかに「安全な自己表現」を模索しているかを物語っています。
計算ずくの行動は、衆人環視の社会では常に監視され、綻びを指摘されるリスクがあります。
4-3: 真の魅力は「計算」ではなく「共感」の先にある
古代の英雄叙事詩と最新のビデオゲームが、シンプルで記憶に残りやすいキャラクターや定型表現の多用といった共通点を持つように、文化のトレンドもまた、形を変えながらも時代を映し出します。
まとめ
「あざとさ」が戦略的な魅力として機能した時代を経て、現代社会の閉塞感とSNSのストレスを背景に、若者は「不憫かわいい」という報われなさに共感軸を移しました。
計算ずくの戦略は、それが強者のツールと見なされた瞬間に、共感を失うのです。
長期的な魅力とは、相手の承認欲求を満たしつつも、誠実さや人間力によって築かれる信頼関係、そして現代の不安や現実に寄り添った共感の先にあると言えるでしょう。
私たちは、この変化の激しいメディアの海で、自分自身の物語をどのように語り、そして誰に届けていくのか。物語のルールを変えるのは、いつの時代も私たち自身の価値観なのです。
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